
鉄道は、台湾の近代の発展において切っても切り離せない関係にあり、移動手段だけにとどまらず、産業の発展や土地の変遷、都市開発、さらには政治経済や技術、文化の進化を牽引してきた何世紀にもわたる国家レベルのインフラでもあります。
過去100年の台湾鉄道の発展を振り返ると、鉄道に関する事象は、記憶や物語を伝える為の実体、イメージ、演出等の形で、文学、芸術音楽、映画等の作品に絶えず登場してきました。鉄道は、台湾文化と人々の記憶と切っても切り離す事のできないほど、庶民の生活に深く溶け込んでおり、余りにも当たり前過ぎて、特別に意識されることはあまりありません。
沿線の工業地の景観が変容・移転し、元々の鉄道の路線も都市開発の波にのまれ、徐々に高架・地下化されつつある現在、国家鉄道博物館は台北機廠(きしょう)の歴史を継承する最善の方法だけではなく、その変革をどのように解釈し位置づけをするかについての議論に応えていかなければなりません。
公共博物館学(public museology)の実践は、博物館学の世界的なトレンドとなっており、現代の社会問題に積極的に対応し、博物館の技術を活用して、批判的な解釈を提示するとともに、様々な社会や文化が公共の問題をどのように理解・解釈するかの問題にも取組み、博物館が包括的な公共の空間となるよう尽力しています。
従って、国家鉄道博物館は鉄道についての物語りを伝えるだけでなく、現代社会の形成と鉄道の関連性を伝え、皆様に「鉄道を通して台湾を知り、台湾を通して自分自身を知る」ことを提示し、台湾の近代化の歩みを再現・再解釈できるようになっています。「生きた鉄道博物館」、「皆様と向き合い、物語りを紡ぐ博物館」、「現代的ビジョンと社会的関心」をベースに、国家鉄道博物館に対する期待に応え、改めて台湾の鉄道文化の記憶を解釈しています。
「生きた鉄道博物館」という理念は、国家鉄道博物館計画の過程における最大の特徴の一つで、台北鉄路機廠の工場の空間的背景と現場の精神の継承だけでなく、産業遺産2.0のコンセプトのもと、復元された工場建築や機械、鉄道車両は、単に「動く」だけではなくそれ以上のことを物語ってくれます。空間の再現、運行の展示や実際の体験を通じて、鉄道の歴史や文化、技術の核となる価値が人々の学びのプロセスの中で再現・継承され、再び国家鉄道博物館に「生きた」形で展示されています。